1999年から2005年にかけて放映され、当時の子どもたちを夢中にさせた大人気魔法少女アニメ『おジャ魔女どれみ』シリーズ。その20周年を記念して公開された劇場版アニメ『魔女見習いをさがして』は、かつてシリーズを見て育ったファン層に向けて作られた異色の作品として、公開当時から大きな注目を集めました。本作は、アニメ版の主人公であるどれみたちではなく、現代を生きる大人の女性3人を主人公に据えるという非常に攻めたアプローチをとっています。なぜこのような構成が選ばれたのか、その制作の裏側やリアルな現代女性の描写、そして作品が伝えたかったメッセージについて詳しく紐解いていきます。
『魔女見習いをさがして』の基本概要と受賞実績

『魔女見習いをさがして』は、『おジャ魔女どれみ』シリーズの20周年記念作品として企画され、2020年11月13日に劇場公開されました。監督は、テレビシリーズからのスタッフである佐藤順一と、鎌谷悠の共同監督体制で制作されました。当時のメインスタッフの多くが再集結し、シリーズの原点である世界観を大切にしつつも、全く新しい視点のアニメーションとして構築されています。
公開後、その質の高いストーリーテリングや現代社会を生きる女性への深い洞察が評価され、第75回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞するという快挙を成し遂げました。興行収入は3億円を記録し、子ども向けアニメの枠を超え、かつてファンだった大人世代を中心に熱狂的な支持を集める作品となりました。
| 項目 | 内容 | 備考・実績 |
|---|---|---|
| 公開日 | 2020年11月13日 | おジャ魔女どれみ20周年記念作品 |
| 監督 | 佐藤順一、鎌谷悠 | テレビシリーズのスタッフが多数集結 |
| 受賞歴 | 第75回毎日映画コンクール アニメーション映画賞 | 作品の質の高さが公的に評価 |
| 興行収入 | 3億円 | 大人向けアニメーションとして堅調な成績 |
なぜ「どれみ達」を主人公にしなかったのか?監督とプロデューサーの意図
本作の最大の特長であり、事前の発表時に大きな驚きをもたらしたのが、「春風どれみ達メインキャラクターを主人公としない」という選択でした。これについて、プロデューサーの関弘美や脚本の栗山緑らは、インタビューや制作背景の中で明確な意図を語っています。
テレビシリーズのキャラクターをそのまま大人にして主人公に据えた場合、同級生である彼女たちは全員同い歳になってしまいます。しかし、当時リアルタイムで『おジャ魔女どれみ』を観ていた視聴者の年齢層には幅があります。関弘美は「『おジャ魔女』を観てくださっていたすべての方に届けるためには、同じ歳の人ばかり出しちゃダメだなと思った」と語っており、より幅広い世代の観客が自身の人生を重ね合わせられるよう、年齢や背景の異なる3人の主人公(ソラ、ミレ、レイカ)を配置したのです。
加えて、脚本の栗山緑も、初期のプロットでは成人したどれみ達を主人公にする案を検討していたものの、「どれみファンには響くけれど、一般の観客には興味を持たれない」と判断し、新しい3人の主人公を立てる形に変更しました。あえてタイトルに「おジャ魔女どれみ」という名前を直球で入れなかったのも、映画を観終わった観客に「これこそどれみの映画だ」と感じてもらいたいという強いこだわりと、過去の人気に安住しない挑戦的な姿勢の現れでした。
徹底的なリサーチから生まれたリアルな現代女性の描写
本作のストーリーは、年齢や職業、住む場所も異なる20代の女性3人――教員志望の大学生・長瀬ソラ(22歳)、会社員の吉月ミレ(27歳)、フリーターの川谷レイカ(20歳)が、『おジャ魔女どれみ』ゆかりの地をめぐる旅を通じて出会い、成長していく姿を描いています。
このキャラクター造形と世界観の構築にあたっては、現代の一般的な20代の女性がどのような日常や葛藤を送っているのかが徹底的にリサーチされました。テレビ放送の第1年目である1999年に8歳だった人は公開当時28〜29歳、最終年の2003年に3歳だった人は19〜20歳になるという計算のもと、観客が自身の世代や境遇をそのまま投影できるリアルな環境が整えられました。
また、リサーチの過程では、1999年当時と比較して大学生の半数が奨学金を利用せざるを得ない社会情勢へと変化していることなど、経済状況の悪化や所得格差の拡大といった現代社会のシビアな現実も浮き彫りになりました。そうしたリアルな社会情勢は登場人物たちの背景や悩みにもしっかりと反映されています。『おジャ魔女』シリーズは魔法が存在するファンタジー世界をベースに持ちながらも、子ども向けアニメを制作していた当時から、6人に1人が片親家庭といった厳しい現実を作品に織り込むなど、現実の問題から目を背けない姿勢を貫いてきました。本作でもそのDNAが引き継がれ、現代の大人女性が直面する等身大の壁がシビアかつ丁寧に描かれています。
美術・音楽・演出に込められたこだわりとシリーズの系譜
映像表現や美術の面でも、大人の鑑賞に耐えうる深みと、現実世界と作中の架空世界の境界線を明確にするための工夫が凝らされています。佐藤順一監督によると、テレビシリーズ当時から「明るい、可愛い」だけの背景ではなく、世界に深みを与えるために「重めのトーン」の色使いが意識されていました。本作でもそのトーンを引き継ぎつつ、アニメシリーズよりもさらにシビアなストーリー展開に合わせて、美術担当に対してわずかに明るくするよう調整が要請されました。
美術班は、絵画的な美しさとリアリズムのバランスを慎重に保ちつつ、現実の世界とどれみ達がいる架空の世界を視覚的に区別するため、よりリアリズムを追求した作画を行っています。また、シリーズのファンにとって印象深い「たんぽぽ」や「綿毛」のモチーフは、『おジャ魔女どれみ』以前に佐藤順一、栗山緑、関弘美の3人が手掛けたアニメ『夢のクレヨン王国』において綿毛が空を飛んでいくシーンで終わったことに由来しているという裏話もあり、長年アニメーション業界を牽引してきたクリエイター陣の強い結びつきが感じられます。
劇中歌には「おジャ魔女カーニバル!!(+子供たち Version)」が使用され、かつてのファンたちのノスタルジーを刺激しつつも、物語のテーマに寄り添った演出として見事に機能しています。
【魔女見習いをさがして】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:『魔女見習いをさがして』を観る前に、テレビシリーズを全部観る必要がありますか?
A1:テレビシリーズを全話視聴していなくても十分に楽しむことができます。本作はかつてシリーズを見ていた大人たちが主人公となっており、当時の思い出や作中の聖地を巡るストーリーテリングのため、初見であってもノスタルジーや等身大の人間ドラマとして共感できるよう作られています。もちろん、シリーズを知っているとより一層ニヤリとできる小ネタやオマージュを楽しむことができます。
Q2:どれみ達メインキャラクターは映画に全く登場しないのですか?
A2:春風どれみをはじめとするおジャ魔女のメインキャラクター達は、過去の記憶やアニメの映像、あるいは作中のモチーフや象徴として登場しますが、今回の物語の主役として直接ストーリーを動かす立場ではありません。あくまで現代を生きる3人の女性たちの成長と絆が物語の中心に据えられています。
Q3:子供向けアニメの劇場版ですが、大人が観ても見応えがありますか?
A3:むしろ、メインターゲットは当時子どもだった現在の大人たちです。進路や仕事、人間関係などで悩む20代女性のリアルな葛藤や、夢を見失いかけた大人たちが再び前を向いて歩き出す姿が描かれており、社会人としての経験を積んだ大人だからこそ深く心に響くストーリーとなっています。
劇場版アニメ『魔女見習いをさがして』は、単なる過去の人気アニメの懐古趣味的な続編ではなく、かつて子どもとして画面の前に座っていたファンたちが大人になった「現在」に真っ正面から向き合った意欲作でした。
どれみ達をあえて主人公から外し、現代の厳しい社会情勢や等身大の悩みを抱える20代の女性たちを主人公に選んだことは、作品が持つメッセージの普遍性をより一層際立たせる結果となりました。ファンがそれぞれの思い出や人生を重ね合わせ、再び大切なものを見つめ直すきっかけを与えてくれる本作は、アニメ史に残る名作の20周年記念映画として、今後も長く語り継がれていくでしょう。